ストレートネックだから痛いのか、痛いからストレートネックになるのか
目次
姿勢を直せば治るという話がどこまで正しいのか、根拠を整理しました
この記事でいう「ストレートネック」は、頭が体より前に出た姿勢(いわゆる「スマホ首」、医学的には前方頭位姿勢)を指します。
30秒でわかるポイント
- 首の痛みがある大人は、ない大人より頭が前に出ている程度が平均4.8度大きくなっています。研究15本をまとめた結果です。
- ところが、スマートフォンをいちばん長く見る10代では、姿勢と首の痛みの関連はありませんでした。 姿勢ひとつですべてを説明できるわけではないということです。
- さらに大切なのはこの点です。含まれた研究がすべて一時点だけを測ったものなので、姿勢が痛みを引き起こしたのか、痛いから姿勢がそうなったのか、方向がわかりません。
- 治療の側の根拠は、よりはっきりしています。臨床試験27本・2,485人をまとめた結果、首と肩・肩甲骨の筋力強化運動は痛みを減らしました。一方、ストレッチだけを行うことは根拠が不十分でした。
- ですから、方向性は伸ばすことではなく、鍛えることです。鍼治療には短期的な痛みの緩和の根拠があるため、運動ができる体をつくる役割として併用します。
よく伺うお悩み
- 「ストレートネックだと言われました。矯正しないと痛みは取れないんですよね?」
- 「姿勢矯正ベルトを買おうかと思っているんですが、効果はありますか?」
- 「ストレッチは毎日しているのに、変わりません。」
- 「一日中モニターの前にいるので、どうしようもないんです。」
横顔の写真を撮って来院される方が多くいらっしゃいます。耳が肩より前にあるからストレートネックで、だから首が痛いのであって、姿勢を矯正すれば治るはずだ、という順序とともに。
この順序は、半分は正しく、半分は確認が必要です。 どこまでが研究で確かめられていることなのか、そしてそれより根拠の強い治療は何なのかを整理しました。
初日はこう進みます
- 首だけが痛いのか、腕まで下りてくるのか。 腕がしびれる、力が入らないといった場合は、話が変わります。まずこれを見分けます。
- 姿勢の並びを測っておきます。 原因を判定するためではなく、あとで比べるための基準をつくっておくためです。
- 今日から行う運動をひとつ。 伸ばすのではなく、支える力を鍛えるものです。やり方と回数まで決めてお伝えします。
姿勢と痛みの関係について、研究は何と言っているか
ストレートネックの医学的な名前は、前方頭位姿勢です。頭が胴体より前に出た姿勢のことをいいます。首の後ろの筋肉が頭の重さを支える負担が大きくなる、という理屈が、一般的な考え方の土台になっています。
この関係を実際に測った研究15本をまとめて分析したものがあります。結果は三層になっていました。
第一に、大人では関連がありました。 首の痛みがある大人は、ない大人より頭が前に出ている程度が平均4.8度大きく、姿勢が前に出ているほど痛みの強さや生活上の不便が大きいという関係が確認されました。
第二に、10代では関連がありませんでした。 スマートフォンをいちばん長く見ている世代なのに、首が痛い10代と痛くない10代とで、姿勢に違いはありませんでした。「スマホを見る姿勢が首を壊す」という心配とは食い違う結果です。研究チームは、年齢がこの関係に影響する要因だと考えました。
第三に、そして最も大切なこと。 含まれた研究はすべて、一時点で姿勢と痛みを同時に測ったものでした。そのため、姿勢が痛みをつくったのか、痛みが姿勢をつくったのか、方向がわかりません。
痛む首は自然と縮こまり、頭を前に出した姿勢をとります。ストレートネックは痛みの原因かもしれず、結果かもしれず、その両方かもしれません。いまの研究では、それを見分けることができません。
まとめるとこうです。大人の首の痛みとストレートネックは、たしかに一緒に現れます。しかし、「ストレートネックだから痛い」と断定するのは、研究が許す範囲を超えています。 角度を何度か直せば痛みが治るという根拠は、なおさら確立されていません。
では、根拠のある治療は何か
姿勢をめぐる議論とは別に、治療の側には方向のはっきりした根拠があります。
筋力強化運動です。 首の痛みに対する運動療法の臨床試験27本・2,485人をまとめた分析で、慢性の首の痛みに対して、首と肩甲骨・胸郭・腕の筋力強化運動は、治療直後にはっきりとした痛みの減少を示しました。
注目すべきは、その先です。ストレッチだけを行うことや一般的な体力運動は、痛みや機能を変えられない可能性がある、という根拠の弱い側にとどまりました。 「首のストレッチをしましょう」というよくあるアドバイスと、実際の根拠とのあいだには、隔たりがあるのです。
伸ばすだけでは足りず、支える力を鍛えなければならない、というのがこの分析の意味するところです。運動は安全で、副作用は一時的で軽いものでした。
鍼治療。 首の疾患に対する鍼治療を検討した分析は、短期間の首の痛みの緩和について、中程度の質の根拠があると評価しました。長期的な効果の根拠は相対的に不足しています。これは、鍼で痛みを調整して時間を稼ぎ、そのあいだに運動で力を鍛えるという併用の形が、根拠に合っているということでもあります。
手技療法。 首の骨を扱う手技療法は、方法が違っても互いに似た効果を示すという根拠があります。このテーマについては、推拿(チュナ)と徒手療法の回で根拠と限界を別に取り上げました。
これらの根拠の限界
方向がわからないこと。 姿勢と痛みの研究は一時点だけを測る設計なので、因果の方向を語ることはできません。大人の4.8度の差も、人によるばらつきが大きいものです。一人ひとりの患者さんに「あなたの角度が痛みの原因です」と言える根拠はありません。
運動の根拠の質。 分析自体が明らかにしているとおり、質の高い根拠はなく、中程度が最上でした。効果の大きさは、今後の研究で変わる可能性があります。
短期が中心。 運動も鍼も、治療直後から短期までが中心です。仕事の環境がそのままの状態で、治療だけで長期的な再発を防げるかどうかは、別の問題です。
姿勢矯正器具の根拠の空白。 矯正バンドや装具が首の痛みを減らすという質の良い根拠は、確立されていません。腰のコルセットの回で見たのと同じです。装具についての答えは病名と目的によって分かれ、一律に勧めることにも、一律に止めることにも根拠はありません。
当院がはっきりさせておくこと
角度が何度良くなるとはお約束しません。 姿勢の並びを測るのは、治療前後を比べる基準をつくり、左右の非対称や肩・背中に伴う問題を見るためです。測った角度を「あなたが痛い理由」と断定して矯正商品の理屈に使うのは、根拠を超えることです。
当院の目標は角度ではなく、痛みと機能です。
そこで当院は、こうした基準で診ます
第一に、首だけが痛いのか、腕まで下りてくるのかを見分けます。 腕のしびれや痛み、力の抜けを伴う場合は、単なる筋肉の問題ではなく、神経の根元が圧迫されている可能性を見分ける必要があります。このときは姿勢の話ではなく、神経学的な評価と画像での確認が先です。けがのあとに始まった痛み、夜に休んでもひどくなる痛み、熱や体重減少を伴う場合も同じです。
第二に、姿勢を原因ではなく情報として扱います。 測ることには価値があります。ただ、その数字が痛みの犯人だと断定はしません。
第三に、固定された姿勢そのものを問題と考えます。 痛みをつくるのは悪い姿勢ひとつではなく、どんな姿勢でも長く固定されることです。完璧な姿勢を探すより、こまめに変え、こまめに動くほうが首にはよいのです。
第四に、運動は伸ばすことではなく鍛えることとして処方します。 根拠が指し示すのは、首と肩・肩甲骨の強化運動です。ストレッチは補助と位置づけ、支える力をつくる運動をやり方とともにお伝えしたうえで、実際に行っているかを再診で確認します。
第五に、治療の役割を分けます。 鍼・薬鍼・推拿は痛みとこわばった動きに対処して運動ができる体をつくる役割、運動は再発を防ぐ力をつくる役割です。治療だけを繰り返して力が伸びなければ、同じところに戻ってしまいます。
当院ではこのようにいたします
まず見分けます。 初診で、腕の神経症状、けがをしたことがあるか、夜に痛むか、全身の症状を確認します。神経の圧迫が疑われる場合は、同じビル2階の画像診断科と連携して確認したうえで方針を決めます。
姿勢の並びは基準線として測ります。 体型検査で頭と肩・背中の並びや非対称を測りますが、痛みの原因の判定ではなく、治療前後を比べる基準として使います。
痛みに対処して、運動ができる体をつくります。 鍼・薬鍼(やくしん)で痛みと筋肉の緊張を調整し、推拿(チュナ)治療で首と背中のこわばった動きを取り戻します。必要であれば、血液検査・体組成検査をもとに韓方薬も併用します。
強化運動を処方として出します。 首と肩・肩甲骨の筋力運動を、やり方と回数まで決めてお伝えし、再診のときにどう行っているかを見て直していきます。ストレッチだけの処方で代えることはしません。 長く固定された姿勢を断ち切る生活のルールや、画面の高さも一緒に決めます。
痛みと機能で見直します。 痛みのスコアと首が動く範囲を記録して、決めた時点ごとに比べ、反応がなければ同じ治療を繰り返さず、見分ける段階に戻ります。
痛みの原因の組み合わせ、お仕事の環境、いまの筋力によって、治療への反応や回復の速さは人それぞれ異なります。当院が首をどのような順番で診るかは、診療案内にまとめています。
こう変わります
午後になると決まって上がってきていた重だるさが、薄れていくこと。これが先にやってきます。
その次は数字です。痛みのスコアと首の回る範囲を治療前に書き留めておいたので、どれだけ変わったかを目で確かめていただけます。角度の写真の代わりに、これを見ます。
こんな方は、一度いらしてください
- ストレートネックだと言われて、矯正器具を調べている方
- ストレッチは毎日しているのに、変わらない方
- 一日中モニターの前にいる方
- 首から始まって、肩や頭まで上がってくる方
腕がしびれる、力が入らないという方は、そのことを先にお話しください。 順番が変わります。
この記事が参考にした資料
| 資料 | どんな研究か | 結果 |
|---|---|---|
| Safiri 外, 2020 | 世界の疾病負担分析 | 首の痛みは障害を引き起こす原因の上位 |
| Mahmoud 外, 2019 | 姿勢と首の痛みを測った研究15本をまとめて分析 | 大人は平均4.8度前に出ており、痛み・不便と相関。10代は無関係。因果の方向は確定できない |
| Gross 外, 2015 | 運動療法の臨床試験27本・2,485人 | 首・肩甲骨・腕の筋力強化が慢性の首の痛みを減らす(中程度の質の根拠)。ストレッチ単独は根拠不十分。運動は安全 |
| Trinh 外, 2016 | 首の疾患に対する鍼治療の臨床試験 | 短期の痛みの緩和に中程度の質の根拠 |
参考文献
Safiri S, Kolahi AA, Hoy D, Buchbinder R, Mansournia MA, et al. Global, regional, and national burden of neck pain in the general population, 1990-2017: systematic analysis of the Global Burden of Disease Study 2017. BMJ. 2020;368:m791. doi:10.1136/bmj.m791
Mahmoud NF, Hassan KA, Abdelmajeed SF, Moustafa IM, Silva AG. The relationship between forward head posture and neck pain: a systematic review and meta-analysis. Current Reviews in Musculoskeletal Medicine. 2019;12(4):562-577. doi:10.1007/s12178-019-09594-y
Gross A, Kay TM, Paquin JP, et al. Exercises for mechanical neck disorders. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2015;(1):CD004250. doi:10.1002/14651858.CD004250.pub5
Trinh K, Graham N, Irnich D, Cameron ID, Forget M. Acupuncture for neck disorders. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2016;(5):CD004870. doi:10.1002/14651858.CD004870.pub4
ストレートネックの写真を持っていらしても大丈夫です。ただ、その角度を直すのではなく、首が支える力を鍛える方向で計画を立てます。
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