朝の最初の一歩がいちばん痛いなら
目次
自然に治る病気が、なぜこれほど長引くのか。根拠をまとめました
30秒でわかるポイント
- 朝起きて最初の一歩を踏み出すときにかかとがいちばん痛むのが、足底筋膜炎の特徴です。夜のあいだにふさがりかけたところが、朝の体重でまた引っ張られるからです。
- ほとんどは10か月以内に良くなりますが、10人に1人は長引きます。 その時間を短くする管理が必要です。
- 根拠がいちばんしっかりした治療は、注射でも機械でもなく、足の指を引いて足底筋膜そのものを伸ばすストレッチです。要は朝の最初の一歩を踏み出す前に行うことで、効果は2年の追跡でも保たれていました。
- 鍼治療には短期的な痛みの改善を示唆する研究があるため、ストレッチと負荷の管理がうまく働くよう痛みを調整する役割として、一緒に使います。
- 夜、休んでいても痛む、両方のかかとが同時に痛む、腰のこわばりも一緒にあるという場合は、足底筋膜炎ではないほかの原因を先に確認する必要があります。
よく伺うお悩み
- 「朝起きて最初の一歩で、かかとが裂けるように痛いんです。」
- 「数歩歩くと少しほぐれるのに、長く座ってから立ち上がるとまた痛くなります。」
- 「自然に治ると言われて待っていたら、半年以上たってしまいました。」
- 「衝撃波を何度も受けたのに、変わりません。」
かかとの痛みでいらっしゃる方の訴えは、驚くほど同じです。
初日はこう進みます
- 本当に足底筋膜炎なのか。 痛む場所がかかとの内側か中央か、最初の一歩で痛むタイプか、ずっと痛むタイプかを確認し、ほかの原因が疑われれば同じビル2階の画像診断科と連携して診ます。
- 今、朝の最初の一歩が何点なのか。 回復を測る目盛りなので、その日に記録しておきます。
- 今日から行うこと。 ストレッチの方法とタイミングを、その場で直接お伝えします。お金がかからず副作用もない、根拠がいちばんしっかりした治療です。
なぜよりによって朝の最初の一歩がいちばん痛いのか
このパターンには理由があります。
足底筋膜は、かかとの骨から足の指まで足裏を横切る厚い線維の組織で、歩くたびに体重を受け止める弓の弦のような役割をしています。傷んだ筋膜は、夜のあいだ足がゆるんだ状態で少しふさがります。そして朝の最初の一歩で体重がかかると、そのふさがりかけたところがまた引っ張られます。
毎朝、同じところがまた裂けているようなものです。
名前について一つ押さえておくことがあります。「炎」という字とは違い、慢性の足底筋膜炎の組織所見は、急性の炎症よりも、繰り返す損傷による変性に近いと文献は指摘しています。消炎鎮痛薬の効きがいまひとつなことが多い理由であり、治療の焦点が炎症を鎮めることよりも組織がふさがる条件をつくることにある理由でもあります。
自然に治る病気ではないのですか
ほとんどは治ります。症状は一般に10か月以内に良くなると報告されています。
ところが約10%は、長く続き、ときに日常生活を崩してしまう症状へと進みます。五十肩で見たのと同じ構図です。「おおむね治る」と「一部は長引く」が同時に正しく、問題はその10か月が決して短くないということです。
毎朝の最初の一歩が痛いまま過ごす10か月は、「自然に治る病気」という言葉では慰められない時間です。
そこで、問いはこう変わります。その時間を短くし、10%の側に入らないためには、何をすべきか。
根拠がいちばんしっかりした治療が、いちばん安上がりです
この分野でもっともよく設計された試験の主役は、注射でも機械でもなく、ストレッチです。ただし、どんなストレッチでもいいわけではありません。
10か月以上続いている慢性足底筋膜炎の患者を、足底筋膜に特化したストレッチ群とアキレス腱ストレッチ群に分けた試験では、8週間後に両群とも良くなりましたが、足底筋膜ストレッチ群のほうが、最初の一歩の痛みと活動機能の改善がはっきり大きいものでした。
方法の要は二つです。体重がかからない姿勢で足の指を体のほうへ引き、足底筋膜そのものを伸ばすこと。そして1日3回のうち1回目を、朝の最初の一歩を踏み出す前に行うこと。毎朝また裂ける前にあらかじめ伸ばしておくという、病気の仕組みを正確にねらった設計です。
この結果は一時的なものではありませんでした。2年間の追跡研究でも痛みと機能制限のはっきりした減少が保たれ、満足度も高いものでした。
お金がかからず、副作用がなく、2年の根拠がある治療です。足底筋膜炎の治療計画で、これが基本になるべき理由です。
ほかの治療の根拠は、どこまで来ていますか
体外衝撃波。 ランダム化試験6本・897人を統合したメタ分析では、朝の痛みの改善の加重平均差は10cmスケールで0.42cmでした。統計的には有意でしたが効果の大きさはごく小さく、質の高い試験だけを集めた分析では有意性が消えました。その後も研究は続いていますが、当初期待されたほど確かな治療ではない、というのがこの資料の示すところです。衝撃波を何度も受けても変わらない場合に何を見るべきかは、別にまとめてあります。
鍼治療。 足底のかかとの痛みに対する鍼治療のランダム化試験を検討したシステマティックレビューは、短期(4〜8週)の痛みの改善を示唆する根拠を確認しましたが、含まれた研究の数と質の限界もあわせて指摘しています。その後、電気鍼と手技による鍼を直接比べたランダム化試験が発表されるなど、研究は進行中です。
ドライニードリングのような侵襲的な刺激。 筋膜の圧痛点を直接刺激する治療について、2021年に更新されたメタ分析が出ています。痛みの改善を報告していますが、やはり研究の質の限界もあわせて記されています。
この分野の全体像はこうです。確実な一手はありません。ストレッチという基本の根拠がいちばんしっかりしていて、その上に重ねる治療は「痛みの改善を示唆するが、根拠の質は限られている」という状態です。この全体像を知っているかどうかは、治療を選ぶうえで大きな違いを生みます。
これらの根拠の限界
盲検ができないこと。 ストレッチの試験を含め、この分野のほとんどの試験では、患者が自分が何を受けているかを知らないようにすることができません。痛みという主観的な指標は、期待による影響を受けます。
自然な回復との混在。 ほとんどが10か月以内に良くなる病気なので、どんな治療でもその期間に行えば改善が見られます。対照の設計が弱い研究の改善分には、自然経過が混じっています。
慢性患者中心の資料。 ストレッチの試験の対象は、10か月以上続いている慢性の患者でした。発症初期の患者での効果の大きさは、別に確かめられたわけではありません。ただ、初期ほど結果が悪くなる理由は見当たりません。
鍼の研究のばらつき。 ツボの選び方、刺激の方法、治療回数が研究ごとに違うため、まとめて解釈するのが難しく、どの方法がいちばん良いかは確立されていません。
当院がはっきりさせておくこと
ほとんどが10か月以内に良くなる病気なので、良くなった分のうちどれだけが治療のおかげで、どれだけが時間がたったからなのかは、研究でもきっぱり分けるのが難しいのです。
そのため当院では、朝の最初の一歩の点数を測っておきます。減っていれば続け、減らなければ同じ治療を繰り返さず、鑑別の段階に戻ります。
そこで当院は、こうした基準で診ます
一つ目に、本当に足底筋膜炎なのかから見極めます。かかとの痛みがすべて足底筋膜炎ではありません。かかとの脂肪パッドが薄くなった場合、神経が圧迫されている場合、疲労骨折、そしてまれですが、若い方の両方のかかとの痛みに腰のこわばりが伴う場合は、炎症性の脊椎疾患のサインのことがあります。夜に休んでいても痛む、両方が同時に痛む、全身の症状を伴うといったことは、改めて診るべきサインです。
二つ目に、ストレッチを処方の中心に置きます。根拠がもっとも強い治療をおまけのように扱うのは、順番が間違っています。方法とタイミングを正確にお伝えし、実際に行っているかを再診のときに確認します。
三つ目に、負荷の方程式を一緒に解きます。足底筋膜が受ける負荷は、体重、ふくらはぎの筋肉の短縮、立っている時間、靴で決まります。体重が増えた、ふくらはぎが固い、一日中立ち仕事をしている、最近運動量が急に増えたという場合、その要因を扱わずに足裏だけを治療しても、底の抜けた桶に水を注ぐようなものです。同じところが何度もぶり返す理由も、たいていここにあります(再発編)。
四つ目に、上に重ねる治療は根拠の大きさに見合う分だけ重ねます。鍼・薬鍼(やくしん)は、短期的な痛みの改善の根拠の上で痛みを調整し、組織が回復する条件をつくる役割で、頑固な癒着には鍼刀(しんとう)治療を行うかどうかを判断します。大きな効果を約束する治療ではなく、ストレッチと負荷の管理が働くための時間を稼ぐ治療として位置づけるのが、根拠に合った位置です。
五つ目に、最初の一歩の痛みを指標にします。この病気の回復は、朝の最初の一歩の痛みの点数にもっとも正直に現れます。
当院の進め方
まず鑑別をします。 痛む場所がかかとの内側か中央か、最初の一歩で痛むタイプか、ずっと痛むタイプかを確認し、疲労骨折やほかの原因が疑われれば、同じビル2階の画像診断科と連携して確認します。両方が同時に痛む、夜も痛む、全身の症状を伴うという場合は、該当する診療科をご案内します。
ストレッチを処方します。 足底筋膜に特化したストレッチの方法とタイミング(朝の最初の一歩の前を含め、1日3回)を初診で直接お伝えし、再診のときにどう行っているかを見て修正します。ふくらはぎが短くなっていれば、アキレス腱のストレッチも一緒に行っていただきます。
負荷の要因をあわせて扱います。 体成分検査(InBody検査)で体重の要因を確認し、体型検査で足首と脚の並びを見て、立っている時間と靴について伺い、調整できることを一緒に決めます。必要であれば、推拿(チュナ)治療で足首と脚の並びと動きを扱います。
上に重ねる治療は、役割を決めて使います。 鍼・薬鍼で痛みを調整してストレッチと活動ができる条件をつくり、頑固な癒着には鍼刀治療を行うかどうかを判断します。それぞれの治療の根拠の大きさは、そのままお伝えします。
最初の一歩の点数で確かめます。 朝の最初の一歩の痛みの点数を治療前に記録し、再診のたびに比べます。決めた期間に経過が思わしくなければ、同じ治療を繰り返さず、鑑別の段階に戻ります。
回復にかかる期間は、患ってきた期間、体重、仕事による負荷、ふくらはぎの柔軟性によって人それぞれです。
こう変わります
朝ベッドから下りるときに、覚悟しなくてよくなること。これが最初の変化です。
その次は点数です。治療前の最初の一歩の痛みを書きとめておくので、どれくらい減ったかを目で確かめていただけます。「良くなっているような、いないような」で何か月も過ごさなくてすみます。
こんな方は、一度いらしてください
- 朝の最初の一歩が痛いのが、何か月も続いている方
- 自然に治ると言われて待っている方
- 衝撃波や注射を受けたのに変わらない方
- 一日中立ち仕事をしている方
いらしたらその日に最初の一歩の点数を測り、今日から行うストレッチを覚えてお帰りいただけます。 お金のかからないことから始めます。
この記事が参考にした資料
| 資料 | どんな研究か | 結果 |
|---|---|---|
| DiGiovanni ほか, 2003 | 10か月以上の慢性患者をランダムに割り付け(82人完了) | 足底筋膜に特化したストレッチが、アキレス腱ストレッチより最初の一歩の痛み・活動機能をより改善 |
| DiGiovanni ほか, 2006 | 上記試験の参加者を2年追跡 | 痛み・機能制限のはっきりした減少が持続、高い満足度 |
| Thomson ほか, 2005 | 体外衝撃波の試験6本・897人を集めて分析 | 朝の痛みの改善0.42cm(10cmスケール)、効果の大きさはごく小さい。質の高い試験だけでは有意性が消失 |
| Clark & Tighe, 2012 | 鍼治療の試験を集めて検討 | 短期(4〜8週)の痛みの改善を示唆。研究の数と質の限界もあわせて指摘 |
| Wang ほか, 2021 | 足底のかかとの痛みのランダム化試験 | 電気鍼と手技による鍼を直接比較 |
| Llurda-Almuzara ほか, 2021 | ドライニードリング関連試験の更新分析 | 痛みの改善を報告。根拠の質の限界もあわせて記載 |
参考文献
DiGiovanni BF, Nawoczenski DA, Lintal ME, Moore EA, Murray JC, Wilding GE, Baumhauer JF. Tissue-specific plantar fascia-stretching exercise enhances outcomes in patients with chronic heel pain: a prospective, randomized study. Journal of Bone and Joint Surgery (American). 2003;85(7):1270-1277. doi:10.2106/00004623-200307000-00013. PMID: 12851352
DiGiovanni BF, Nawoczenski DA, Malay DP, Graci PA, Williams TT, Wilding GE, Baumhauer JF. Plantar fascia-specific stretching exercise improves outcomes in patients with chronic plantar fasciitis: a prospective clinical trial with two-year follow-up. Journal of Bone and Joint Surgery (American). 2006;88(8):1775-1781. doi:10.2106/JBJS.E.01281. PMID: 16882901
Thomson CE, Crawford F, Murray GD. The effectiveness of extra corporeal shock wave therapy for plantar heel pain: a systematic review and meta-analysis. BMC Musculoskeletal Disorders. 2005;6:19
Clark RJ, Tighe M. The effectiveness of acupuncture for plantar heel pain: a systematic review. Acupuncture in Medicine. 2012;30(4):298-306. doi:10.1136/acupmed-2012-010183
Wang W, Liu Y, Jiao R, et al. Comparison of electroacupuncture and manual acupuncture for patients with plantar heel pain syndrome: a randomized controlled trial. Acupuncture in Medicine. 2021;39(4):272-282
Llurda-Almuzara L, et al. Is dry needling effective for the management of plantar heel pain or plantar fasciitis? An updated systematic review and meta-analysis. Pain Medicine. 2021;22(7):1630-1641
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